岩倉の町で学んだ、“その人に寄り添う医療”のかたち〜武田総合病院専攻医・𠮷田沙織先生が語る、岩倉駅前たはらクリニックでの6ヶ月〜

京都市・岩倉の閑静な住宅街に佇む「岩倉駅前たはらクリニック」。ここで6ヶ月の地域医療研修に臨んだのが、武田総合病院専攻医・𠮷田沙織先生です。家庭医としての一歩を踏み出し、地域の人々の暮らしに寄り添いながら日々の診療に向き合う中で、「聴くことの大切さ」や「その人らしい医療のあり方」に気づいたといいます。この記事では、岩倉での6ヶ月を通して見えた地域に根ざす医療の魅力と、これからの家庭医療への想いを紹介します。


岩倉で始まる、家庭医としての新たな挑戦
ーー2025年4月から9月までの半年間、京都市にある岩倉駅前たはらクリニックで地域医療研修を行われた𠮷田先生ですが、ここでの研修に興味をもたれたキッカケを教えてください。
家庭医療診療所の研修先を探していたとき、プログラムの上級医の先生から「岩倉駅前たはらクリニック」を紹介していただいたのがキッカケでした。それまでご縁はなかったのですが、紹介を通してお話を聞くうちに、地域に根ざした丁寧な医療を実践されていることを知り、とても興味をもちました。
実は、岩倉駅前たはらクリニックが専攻医を受け入れるのは今回が初めてだったそうです。専攻医受け入れという新しい試みに挑戦するのは、きっと大変なことだったと思います。それでも、田原先生は「ぜひ一緒にやりましょう」と、二つ返事で受け入れてくれました。その包容力とあたたかさに、心がやわらかく包まれるような気持ちになりました。
田原先生と初めてお会いしたのは、研修前の見学のときです。穏やかなお人柄と、スタッフや患者さんに向けるまっすぐなまなざしが印象的でした。話しやすい雰囲気をつくりながらも、医師として伝えるべきことはしっかりと伝える。その姿勢に、誠実さと強い正義感を感じました。違和感をそのままにせず、常に「総合的に正しい判断」を追い求めていく。丁寧でまっすぐな姿勢と、その中にあるやさしさのバランスが、とても魅力的でした。

岩倉は京都市の中でも医療資源が比較的豊富な地域です。そんな環境の中で、家庭医の先生がどのように他の診療所や病院、介護・福祉の資源と連携しながら地域の健康を支えているのかを知りたいと思いました。地域のネットワークの中でどう動くのかを学ぶことは、どんな場所で働くようになっても役立つはずだと思ったんです。
患者さんと向き合う中で気づいた、家庭医療の奥深さ
ーー実際に地域医療研修がスタートして、心に残っている出来事や印象的だった場面があれば教えてください。
実際に働き始めてまず感じたのは、症例の幅広さです。岩倉は都市部にも近く、まわりには専門の病院やクリニックも多くありますが、それでも岩倉駅前たはらクリニックには、さまざまな症状や背景をもつ患者さんが訪れます。
地域にしっかりと根づき、家族みんなの健康を支える「ファミリークリニック」として信頼されていることを、日々の診療のなかで実感しました。

印象に残っているのは、主訴がはっきりしない患者さんへの対応です。まずは重大な病気が隠れていないかを丁寧に調べましたが、検査の結果、特に異常は見つかりませんでした。医学的には「問題なし」といえる一方で、患者さんが感じる不調や不安はそのまま残っている。家庭医として、どう寄り添えばいいのか、とても悩みました。
そのとき、田原先生に相談すると、「この点は聞いた?」「こういう背景は考えられるかな?」と、私が拾いきれていなかった部分に丁寧に光を当ててくださいました。その言葉を受けてもう一度お話を伺うと、少しずつ患者さんの「困りごとの根っこ」が見えてきたのです。思わぬところから解決の糸口が見つかり、「こんなふうにつながっていくんだ」と感動したのを覚えています。
限られた外来の時間の中で、適切な問いを重ねながら少しずつ全体像を描いていく。その過程で、患者さん自身も気づいていなかった思いが浮かび上がり、必要な支援や専門家へつなげることができる。患者さんが本当に求めているゴールを一緒に探っていくというプロセスに、家庭医療の奥深さとやりがいを強く感じました。
「聴くこと」の本当の意味に気づいて
ーー岩倉駅前たはらクリニックでの研修を通して、ご自身の中で変化を感じたことはありますか?
「患者さんの話をしっかり聞く」ことは、学生の頃から何度も教えられてきたことでしたし、自分でも当たり前のように意識してきたつもりでした。でも、今振り返ると、その「聞く」は医学的に正しい判断を下すための情報を集めることに過ぎなかったのかもしれません。
岩倉駅前たはらクリニックで研修を始めてからは、患者さん一人ひとりの価値観や生活背景の違いに、より丁寧に耳を傾けようと意識するようになりました。同じ症状でも、同じ言葉やアプローチが通じるわけではありません。時間をかけてこそ見えてくる、その人の暮らしや思いに寄り添うことの大切さに気づかされました。
患者さんの人生の一部を見せていただくような気持ちでお話を伺うと、検査や治療の選択にも納得感が生まれてくるのです。それは結果的に、医療資源を大切に使うことにもつながります。表面的な「診る」ではなく、しっかりと「聴く」ことで見えてくる医療の大切さを実感した研修となりました。

ーー𠮷田先生が、家庭医として働くうえで大切にしていることを教えて下さい。
私が家庭医として大切にしているのは、患者さんの人生に長く寄り添い、信頼関係を築くことです。病気だけを見るのではなく、その人がどんな毎日を過ごしていて、どんなことに悩み、何を大切にしているのかを丁寧に聴くようにしています。その人の背景や想いを理解してはじめて、心から納得できる医療や支援につながると感じています。
小さな変化や会話の中に、その人の "らしさ" を見つけていけることが、家庭医としてのやりがいです。
𠮷田先生からのメッセージ
ーー最後に、京都で家庭医や総合診療医として地域で働くことに興味をおもちの方へ、メッセージをお願いいたします。
岩倉駅前たはらクリニックは、ドクターやスタッフとの距離がとても近く、院内にはいつも健康的で明るい空気が流れています。小さな気づきやアイデアも気軽に共有できて、すぐに診療へ活かせる柔軟さがあります。
また、職種を問わず「みんなで診ている」という温かい一体感があるのも魅力です。看護師さんや受付スタッフの方が患者さんに自然に声をかけたり、助言をしたり。そのやわらかい空気がクリニック全体を包み込み、やさしい雰囲気をつくっています。スタッフ同士もお互いに補い、支え合う環境に、私自身も何度も助けられました。
さらに、岩倉駅前たはらクリニックでは、再診以外の患者さんには事前の電話相談をお願いしています。看護師さんが電話の段階で緊急度や受診のタイミングを丁寧に判断し、必要に応じて他の医療機関や専門医につなぐ仕組みです。患者さんの安心と安全を守りながら、診療の質を高める工夫として印象的でした。
働く環境として見ても、岩倉は本当に魅力的な町です。緑が多く落ち着いた雰囲気があり、治安も良い。休みの日には叡山電車沿線のお店を巡ったり、北山のカフェで過ごしたり。鞍馬や京都の自然にも気軽に触れられるなど、日常の豊かさもこの地域の魅力です。
地域に根ざした家庭医療をじっくりと実践したい先生に、岩倉駅前たはらクリニックは本当におすすめです。日々の診療を通して学びを深めながら、自分のペースで成長していける環境があります。この町には、岩倉駅前たはらクリニックが地域とともに育んできた“ケアのこころ”が息づいています。まずは見学からでも、ぜひ一度、その穏やかであたたかな空気を感じてみてください。

取材・文=河村由実子
企画・ディレクション=株式会社DTG
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